さらさらと風の吹く週末に

 5月。よく晴れた週末の午後。さらさらと風の吹くベランダに僕は椅子を出す。彼女は静かに微笑んで椅子に腰をおろす。僕は古い洗いざらしのシーツを彼女の首にふわりと巻きつけ、霧吹きで彼女の髪の毛を濡らしていく。小さなたくさんの水の玉がきらきらと虹色の光を放ち、やがていくつもの光が合流して髪の毛の間に吸い込まれる。彼女の軽く閉じた瞼はときどきかすかに動いている。僕はそれを見て、小さなせせらぎで跳ねる魚を想像する。シャンプーはガラスの瓶に入っている。蓋をねじって、濡らした手のひらにとろりとした液体を広げる。両手を擦り合わせ泡をたてる。彼女は相変わらずじっと目を閉じている。どこかで小鳥がさえずっている。木の枝はさらさらと音をたてる。僕は彼女の髪の毛にシャンプーをつけ、ゆっくりと泡だてる。ゆっくりと、ゆっくりと、まんべんなく。立てた10本の指の動きに合わせて泡は次第に細かく柔らかくなり、彼女の頭を包み込む。ときおり僕は目を閉じた彼女の顔を覗きこみ、そしてまた指を動かしつづける。髪の毛の1本1本が泡に包まれ、やがて彼女は眠りから覚めたみたいにゆっくりと目を開き、そしてシャンプーは終わる。5月の風はあいかわらずさらさらと音を立てて吹いている。