2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ずっとパソコンと向き合っていてひどく肩が凝る。 降り続いていた雨が夕方前にあがり、新鮮な空気を吸いに外に出る。 街のあちこちに桜が咲いていて、上ばかり見て歩く。 雨があがったばかりの空気はしっとりと澄んでいて、少しだけ気持ちが和らぐ。 夕暮れ…

動物園に降る雨

パブ/アイルランド 動物園なんて十数年ぶりだった。ましてや雨の降る日に動物園を訪れるのはたぶん生まれて初めてだ。 雨の日に動物たちはそれぞれに過ごしていた。ゾウは泥遊びをし、キリンは直立不動の姿を保っていた。トラは雨など降っていないように優…

春の電話

街角の花/アイルランドひどい夢を繰り返し見て目が覚める。そのせいか、体はセメントの中に埋められたように固まっている。まるで自由がきかず、カーテンの隙間から漏れる光が溶かしてくれるのを待っている。ようやくベッドから起き上がる。その瞬間に電話…

匂い

草原/アイルランド 4時までウィスキーを飲んでいたせいで、朝の光を浴びても僕の頭はぼんやりしていた。 紅茶を入れながら昨日のことを思い出そうとしたけれど、僕の記憶は橋の架かっていない島々のようなものだった。 椅子に掛けた上着がずり落ちそうにな…

耳のなかの骨

夕暮れ/パリ レントゲン技師は、あなたの右耳の奥に少しばかり奇妙な形をした骨があると言うのだった。あなたひまわりの種をたくさん食べませんでしたか、と彼は言った。僕はそんなものを口にした憶えはないので、食べないと答えた。彼は、おかしいなと首を…

雨の降る夜に

難破船/アイルランド 雨の音で目を覚ます。 意識がはっきりするにつれて、ベランダを叩く雨音と車が水たまりをはねる音が はっきりと聞こえてくる。 起き上がってキッチンに行き、お茶をグラスに注いで、ベッドに戻る。時計を見ると1時半だった。もう一度…

読む

川沿いの街/アイルランド やるべき仕事が溜まっているのに、新しい本や雑誌を買ってきて読みふける。かかってくる電話はすべて無視してページをめくる。 ときどき体のどこかがちくりと痛むけれど、それにも気づかないふりをする。 本を読んでいる間に世界が…

髪を切る

ヒース/アイルランド 彼女は僕にハサミを手渡すとくるりとうしろを向いた。 そして束ねた髪を押さえて、「このへんで」と言った。 このへんで?と僕が繰り返すと、「うん、このへんで切って」と言った。 僕はハサミを持ったまま少しぼんやりとする。切る?…

チューリップのしあわせ。

窓際のチューリップが開いていくことに小さなしあわせを感じられるというのはすてきなことだ。そんな感じを誰かと共有できることはさらにすてきなことだけれど。

雨を歩く

古い街並みを歩く。 数寄屋造りの商家や銀行として使われていた洋館が素晴らしくて、別のものを見に来たはずなのに、僕の目に入るのは優雅なカーブを描く手すりや梁に飾られた銅製の家紋やそんなものばかりだ。 そんな古い建物を縫うように歩いていると雨が…

目覚める

サンドイッチ/パリたまには早起きをしてカフェ・オ・レなんていれてみたりもする。

風に揺れる

セーヌ/パリ ベランダに座ってリンゴをかじりながら空を見ていた。 雲が何層にも重なって流れていった。 下の雲は驚くほど早く移動していたが上の方の雲は空に固定されたように動かなかった。 それでもときおり薄くなった雲の隙間から太陽の光が輝いている…

サーカス、サーカス、サーカス

観覧車/パリ テントの中は人でいっぱいだった。なんせサーカスがやってきたのだ。犬とロバとネズミのサーカスだ。最初に髭をはやした団長が出てきて挨拶をした。銀色のタキシードを着ている。袖口や裾がすり切れていたけれど、立派なタキシードだった。なん…

満月

夜、ベランダに座りこみ月を見る。 満月の夜。 3ヶ月前はあんなに寒かったこの部屋にも春はやって来ていて、ベランダを覆う夜の空気も心地いい。 ビールを飲みながら見る月は美しく、僕はぼんやりといろんなことを思い出す。 数日前に訪れた神社や、とても…

薄い月を見た

日没 日が暮れる少し前、空が薄い青も夕焼けの赤も失いつつあるころ、月の写真が届いた。 写真のなか、森の向こうに浮かんだ月は薄く輝いている。 僕は部屋を出て月を探すが、建物が邪魔になって見つけることはできない。 しかたなくもう一度写真を見る。明…

紅梅

道に迷ってたどり着いた先は海に面した神社だった。 そこには思いもかけず梅林が広がっていて、落ちた花びらを踏みながら、梅の木を縫って歩く。 さっきまで降っていた雨は上がり、雲の間から時折光が差した。 光は花びらの絨毯を照らした。 ふと足が止まっ…

過ぎ去りし

国境の街/北アイルランド 遠く過ぎ去ってしまったアイルランドの夏を思う。

雨の夜に

教会のタイル/アイルランド また雨が降る。 雨の夜にタクシーに乗るといつも少し寂しい気持ちになるのはなぜだろう。 午前3時、まだ雨は降り続いている。

羊飼い

ひつじ/アイルランド むかし、羊飼いになりたかった。 いまでもときどき思う。 細くしなやかな木の枝を拾って草原の草を払いながら、羊を追う。 ボーダーコリーが僕のまわりをぐるぐるまわりながら走っている。 チーズとパンとワインの昼食。 草と太陽の匂…

春にして想う

少し寒気がしてソファで毛布にくるまっているうちに、いつのまにか眠ってしまった。 うとうとしながら雷が鳴るのを聞いたような気がする。 目が覚めても、それが本物の雷なのか夢の中のできごとなのか判断がつかなかった。 目覚めて最初に思ったのはツバメ…

教会と街灯/アイルランド 影が美しく見えることもある。

想う。

月とタワー雪が舞っていた。本を読む目を上げて、そのことに気づく。ほんの2時間前には青い空が広がっていた。青い空には薄く小さな月が出ていた。雪。僕は早くそれを伝えたいと思う。だけど伝えるべき相手はもうここにはいない。それでも、伝えたいと強く思…

夜のはじまり、そしておわり

ひとりで物事を考えるには僕は少し疲れていた。それはあまりに長い夜だった。

憎しみ

テレフォンボックス/アイルランド時々僕は電話を憎んだ。電話をかけてくる相手を憎んだ。それはどうしようもないことだった。

ドア

ドア/アイルランド ドア。 内と外を隔てるもの。内と外を繋ぐもの。 それは、どこに続いているのか。

居場所

大きな岩の上に座り対岸の街を眺めていた。 西からゆっくりと太陽の光が移動してきて街並みと海を照らし始めると、世界がキラキラと光りだした。それは、とてもすてきな光景だった。 光はやがて僕の座っている岩にも届き、僕は世界に含まれていることを実感…

約束

聖堂と半月/パリ すでに日はほとんど暮れていて、きれいな半月が顔を覗かせていた。 月が出ていることにしばらく気づかずにいた。下ばかり向いて歩いていたせいだ。 月を見て、ずっとむかしに約束したきり果たせていないことを思い出す。 約束した人のこと…

最近

廃墟と花/アイルランド 最近の僕はまた本ばかり読んでいる。何度読み返したかわからない本をまたなぞっている。そして同じ曲ばかりを聴き続けている。人は進歩のない人生と笑うだろうか。昔出会った大学教授だという男が言っていた。学ぶことは、変わること…

しゃぼん玉の夏

しゃぼん玉/パリ ずっと昔のことだけれど、夜中に小学校のプールに忍び込んで泳いだことがあった。 僕は夏休みの間その小学校でプールの監視員としてアルバイトをしていて、プールの門扉の鍵を預かっていた。今みたいにセキュリティやらコンプライアンスや…