2019-01-01から1年間の記事一覧

孤独

ときどき、ひとりになりたくなった。ひとりの時間がほしいとか、誰とも話したくないとか、そういう次元ではなく、ひとりになる願望に強く襲われた。 家族も肉親もおらず、親しい友人も同僚も持たず、誰とも繋がっていないような本当の孤独に憧れた。いや、本…

偽物

夜を行く 照明もつけずに暗い部屋の小さなソファに座っていた。 部屋に入る前に、少しばかり長い散歩をした。 川沿いの道を歩き、川原に降りてみたり、橋の上から水面を覗きこんでみたり、新しい店の灯りを見つけて寄っていってみたり、ときどき立ち止まって…

降りかかる花びら 今日は月がきれいですね、というメッセージが届く。 窓を開けると冷気が体を包み込む。 テラスにはくっきりした月影がある。 月を探してしばらく眺める。 反対側には北斗七星が輝いている。 ほんとに月がきれいだねと返した僕のメッセージ…

光射す海

光射す海 結局のところ、彼女は僕を求めているわけではなかったし、僕も彼女を求めていたわけではなかった。ふたりとも何かの隙間を埋めるためのささやかなぬくもりが欲しかっただけなのだ。そして、そのことに気づかないふりをしていただけだった。 それで…

はじまりとおわり

線路 僕たちの恋は1月6日に不意に始まり、2月10日に突然終わった。 それは恋とも呼べないものだったのかもしれない。

嫌いなもの

羊 嫌いなものはたくさんある。歯医者、半袖のワイシャツ、アイスコーヒー、そして噛み合わないままに進んでいく会話。 激しい雨の音で目が覚める。 眠りから現実に戻ってくるまでのほんの短い間に何かを思った気がするけど、それはアスファルトに落ちた雪の…

彼女の話

bar ソファで寝てしまって2時過ぎに目が覚め、それから上手く眠れなくて結局ずっと起きていたせいで夕方に仕事が終わるころにはくたくただった。 携帯にメッセージが届いた時には僕はすでにうとうとしていて、手に持っていたはずの本はソファの傍らに落ちて…

沈黙

島の家々 「久しぶり、最近どう?」と僕は訊いた。 彼女は「入院してるんです」と答えた。 「いつから?」「3週間くらい前」 そっか、と僕は言った。それ以外の言葉が浮かばなかった。 そのまま何十秒かが過ぎた。シベリアの冬みたいに長い沈黙だった。僕の…

午前4時の目玉焼き

古い墓、羊、緑 今日買ったばかりの本を読んでいる。目を上げると4時を過ぎている。それでも夜明けはまだ2時間ほど待たなければやってこない。 冷蔵庫を開けて中を覗く。卵を取り出して少し考え、結局、目玉焼きにする。 フライパンを熱し、油をひいてさら…