2014-01-01から1年間の記事一覧

チューリップのしあわせ。

窓際のチューリップが開いていくことに小さなしあわせを感じられるというのはすてきなことだ。そんな感じを誰かと共有できることはさらにすてきなことだけれど。

雨を歩く

古い街並みを歩く。 数寄屋造りの商家や銀行として使われていた洋館が素晴らしくて、別のものを見に来たはずなのに、僕の目に入るのは優雅なカーブを描く手すりや梁に飾られた銅製の家紋やそんなものばかりだ。 そんな古い建物を縫うように歩いていると雨が…

目覚める

サンドイッチ/パリたまには早起きをしてカフェ・オ・レなんていれてみたりもする。

風に揺れる

セーヌ/パリ ベランダに座ってリンゴをかじりながら空を見ていた。 雲が何層にも重なって流れていった。 下の雲は驚くほど早く移動していたが上の方の雲は空に固定されたように動かなかった。 それでもときおり薄くなった雲の隙間から太陽の光が輝いている…

サーカス、サーカス、サーカス

観覧車/パリ テントの中は人でいっぱいだった。なんせサーカスがやってきたのだ。犬とロバとネズミのサーカスだ。最初に髭をはやした団長が出てきて挨拶をした。銀色のタキシードを着ている。袖口や裾がすり切れていたけれど、立派なタキシードだった。なん…

満月

夜、ベランダに座りこみ月を見る。 満月の夜。 3ヶ月前はあんなに寒かったこの部屋にも春はやって来ていて、ベランダを覆う夜の空気も心地いい。 ビールを飲みながら見る月は美しく、僕はぼんやりといろんなことを思い出す。 数日前に訪れた神社や、とても…

薄い月を見た

日没 日が暮れる少し前、空が薄い青も夕焼けの赤も失いつつあるころ、月の写真が届いた。 写真のなか、森の向こうに浮かんだ月は薄く輝いている。 僕は部屋を出て月を探すが、建物が邪魔になって見つけることはできない。 しかたなくもう一度写真を見る。明…

紅梅

道に迷ってたどり着いた先は海に面した神社だった。 そこには思いもかけず梅林が広がっていて、落ちた花びらを踏みながら、梅の木を縫って歩く。 さっきまで降っていた雨は上がり、雲の間から時折光が差した。 光は花びらの絨毯を照らした。 ふと足が止まっ…

過ぎ去りし

国境の街/北アイルランド 遠く過ぎ去ってしまったアイルランドの夏を思う。

雨の夜に

教会のタイル/アイルランド また雨が降る。 雨の夜にタクシーに乗るといつも少し寂しい気持ちになるのはなぜだろう。 午前3時、まだ雨は降り続いている。

羊飼い

ひつじ/アイルランド むかし、羊飼いになりたかった。 いまでもときどき思う。 細くしなやかな木の枝を拾って草原の草を払いながら、羊を追う。 ボーダーコリーが僕のまわりをぐるぐるまわりながら走っている。 チーズとパンとワインの昼食。 草と太陽の匂…

春にして想う

少し寒気がしてソファで毛布にくるまっているうちに、いつのまにか眠ってしまった。 うとうとしながら雷が鳴るのを聞いたような気がする。 目が覚めても、それが本物の雷なのか夢の中のできごとなのか判断がつかなかった。 目覚めて最初に思ったのはツバメ…

教会と街灯/アイルランド 影が美しく見えることもある。

想う。

月とタワー雪が舞っていた。本を読む目を上げて、そのことに気づく。ほんの2時間前には青い空が広がっていた。青い空には薄く小さな月が出ていた。雪。僕は早くそれを伝えたいと思う。だけど伝えるべき相手はもうここにはいない。それでも、伝えたいと強く思…

夜のはじまり、そしておわり

ひとりで物事を考えるには僕は少し疲れていた。それはあまりに長い夜だった。

憎しみ

テレフォンボックス/アイルランド時々僕は電話を憎んだ。電話をかけてくる相手を憎んだ。それはどうしようもないことだった。

ドア

ドア/アイルランド ドア。 内と外を隔てるもの。内と外を繋ぐもの。 それは、どこに続いているのか。

居場所

大きな岩の上に座り対岸の街を眺めていた。 西からゆっくりと太陽の光が移動してきて街並みと海を照らし始めると、世界がキラキラと光りだした。それは、とてもすてきな光景だった。 光はやがて僕の座っている岩にも届き、僕は世界に含まれていることを実感…

約束

聖堂と半月/パリ すでに日はほとんど暮れていて、きれいな半月が顔を覗かせていた。 月が出ていることにしばらく気づかずにいた。下ばかり向いて歩いていたせいだ。 月を見て、ずっとむかしに約束したきり果たせていないことを思い出す。 約束した人のこと…

最近

廃墟と花/アイルランド 最近の僕はまた本ばかり読んでいる。何度読み返したかわからない本をまたなぞっている。そして同じ曲ばかりを聴き続けている。人は進歩のない人生と笑うだろうか。昔出会った大学教授だという男が言っていた。学ぶことは、変わること…

しゃぼん玉の夏

しゃぼん玉/パリ ずっと昔のことだけれど、夜中に小学校のプールに忍び込んで泳いだことがあった。 僕は夏休みの間その小学校でプールの監視員としてアルバイトをしていて、プールの門扉の鍵を預かっていた。今みたいにセキュリティやらコンプライアンスや…

東へ

カフェ/パリ 東に旅立った人からメッセージが届く。 僕は雨上がりの湿った空気の中でそれを開く。 僕たちは500キロメートルほど離れていて、それが僕を不安にさせる。いや、不安なのは急に暖かくなった空気のせいなのかもしれない。僕にはわからない。 自分…

暗闇と光

恋人たち/パリ 僕はうまく眠れなくて天井を見つめていた。 真っ暗な部屋の中で、ときどき通りを走る車のライトが反射して天井に映った。天井の光は弱々しくてすぐに消えた。あとには車の走り去る音と闇だけが残った。それが何回も繰り返された。 いつだった…