僕らのジューシーフルーツガム・フィーバー

 「ポケットにはいつもジューシーフルーツガム」というのが、その冬の僕らの合い言葉だった。誰もが暇さえあれば竸い合うようにしてジューシーフルーツガムを噛んだ。歩いている時も、プールで泳いでいる時も、授業中も、ガムなしではいられなかった。ある者はタバコを吸いながらガム噛んだし、ある者はガムを口に入れたまま眠った。誰しもがそんな調子だったから、僕らの身近ではジューシーフルーツガムが品薄になってしまって、それを手に入れるためにはわざわざ電車に乗って遠くの店まで行かなければならなかった。それでも、ミントガムやコーヒーガムに乗り換えようなんて者はいなかった。僕らはいつも甘い香りに包まれていた。2月に入って2回目の土曜日がやって来て、僕らの街に風が吹いた。それは薄手の白いコートの裾をひらひら揺らすのにぴったりの風だった。あるいはキャンバス地の新しいスニーカーに足を通したくなるような風だった。春がやって来たのだ。そして、僕らのジューシーフルーツガム熱は静かに去っていった。