火曜の電話と水曜の動物園

 彼女が電話をかけてくるのは、決まって火曜日の午後だった。そして必ずこう言う。「明日動物園に行きましょう」
 「動物園に行くのは水曜日が一番いいのよ」というのが彼女の意見だった。休園日の次の日で動物たちがリラックスしているのだそうだ。
 そういうわけで、僕らはよく水曜日に動物園に行った。ある時は上司に嫌味を言われながら休みをもらい、ある時は仮病を使った。たぶん僕は一年の有給休暇のほとんどすべてを水曜日の動物園のために使ったはずだ。
 季節も天気も僕らの動物園には関係がなかった。真夏の太陽の下で麦わら帽子をかぶって氷と遊ぶシロクマを眺め、雨降りの日には傘をさしてアライグマが巣から出てくるのをじっと待った。
 時折、僕らが動物を見ているのではなく、僕らの方が観察されているような気分になった。それでも僕らは動物園に通いつづけ、檻の前に立ち続けた。
 「雨上がりの動物園って好きよ」と彼女は言った。「みんな今朝生まれたばかりみたいに見えるもの」そう言った。
 僕は今でもときどき火曜日の午後になると、彼女から電話がかかってくるような気がして机の前の電話を眺めてしまう。そして雨上がりの水曜日には、いつも動物園のことを考える。だけどそれ以外に、彼女について思い出すことはあまりない。