酔いどれゴンザルヴェスのこと

 バーのカウンターに座った僕の向こう側で、酔いどれゴンザルヴェスはトランペットを吹いている。質屋で買ったトランペットの代金の半分はアルバイトで稼いだ金で払った。残りを2回に分けて払う約束だったが、それは7本のジムビームと4本のフォアローゼスに化けた。酔いどれゴンザルヴェスは銀のカフスボタンをしている。バーのウェイトレスにもらったのだ。そのウェイトレスの名前を酔いどれゴンザルヴェスは知らない。どうしてカフスをくれたのかも知らない。今夜、酔いどれゴンザルヴェスはそのカフスがバーボンに変わるかどうか考えながら、トランペットを吹いている。トランペットに聴き惚れているウェイトレスはそんなことを知らない。このあとバーから出た酔いどれゴンザルヴェスが足を踏み外して運河に落ちてしまうことも知らない。もちろん、自分が2年後にゴンザルヴェスのことをすっかり忘れて、西からやってきたセールスマンと駆け落ちすることになるなんて、全く知らない。