バッティングセンターの女

 彼女はバッティング・センターで受付をしている。ビルの谷間にさえない緑色のネットを張った小さなバッティング・センターだ。今どき受付嬢のいるバッティング・センターなんて佐渡島のトキより希少なんじゃないかと思う。ネットは所々破れかけているし、客はリストラされ手職探しに疲れた中年の男しかいないし(僕のことだ)、どうして地上げされないのか、経営者が暴力団とつながってるとか、資産家が暇に飽かせてやってるんだとか、良くない素性の土地だとか(呪われてるとかそういう類の噂だ)いろいろ聞いたけれど、実際のところ誰もよくわかっていなかった。もちろん僕にわかるはずもない。同じようにどうしてセルフサービス式の機械を入れずに女を雇っているのかも、人々の噂の種になった。女が経営者の愛人だというのがもっともらしい答だったけれど、それは結局のところ真実とはずいぶん離れた噂にすぎなかった。初めて彼女と寝た夜にその噂を聞かせたとき、彼女はころころと笑った。その笑い声は明け方に飲んだビールの苦さとともにいつまでも僕の中に残った。