日々

雨を歩く

古い街並みを歩く。 数寄屋造りの商家や銀行として使われていた洋館が素晴らしくて、別のものを見に来たはずなのに、僕の目に入るのは優雅なカーブを描く手すりや梁に飾られた銅製の家紋やそんなものばかりだ。 そんな古い建物を縫うように歩いていると雨が…

目覚める

サンドイッチ/パリたまには早起きをしてカフェ・オ・レなんていれてみたりもする。

風に揺れる

セーヌ/パリ ベランダに座ってリンゴをかじりながら空を見ていた。 雲が何層にも重なって流れていった。 下の雲は驚くほど早く移動していたが上の方の雲は空に固定されたように動かなかった。 それでもときおり薄くなった雲の隙間から太陽の光が輝いている…

薄い月を見た

日没 日が暮れる少し前、空が薄い青も夕焼けの赤も失いつつあるころ、月の写真が届いた。 写真のなか、森の向こうに浮かんだ月は薄く輝いている。 僕は部屋を出て月を探すが、建物が邪魔になって見つけることはできない。 しかたなくもう一度写真を見る。明…

雨の夜に

教会のタイル/アイルランド また雨が降る。 雨の夜にタクシーに乗るといつも少し寂しい気持ちになるのはなぜだろう。 午前3時、まだ雨は降り続いている。

羊飼い

ひつじ/アイルランド むかし、羊飼いになりたかった。 いまでもときどき思う。 細くしなやかな木の枝を拾って草原の草を払いながら、羊を追う。 ボーダーコリーが僕のまわりをぐるぐるまわりながら走っている。 チーズとパンとワインの昼食。 草と太陽の匂…

春にして想う

少し寒気がしてソファで毛布にくるまっているうちに、いつのまにか眠ってしまった。 うとうとしながら雷が鳴るのを聞いたような気がする。 目が覚めても、それが本物の雷なのか夢の中のできごとなのか判断がつかなかった。 目覚めて最初に思ったのはツバメ…

教会と街灯/アイルランド 影が美しく見えることもある。

想う。

月とタワー雪が舞っていた。本を読む目を上げて、そのことに気づく。ほんの2時間前には青い空が広がっていた。青い空には薄く小さな月が出ていた。雪。僕は早くそれを伝えたいと思う。だけど伝えるべき相手はもうここにはいない。それでも、伝えたいと強く思…

夜のはじまり、そしておわり

ひとりで物事を考えるには僕は少し疲れていた。それはあまりに長い夜だった。

憎しみ

テレフォンボックス/アイルランド時々僕は電話を憎んだ。電話をかけてくる相手を憎んだ。それはどうしようもないことだった。

ドア

ドア/アイルランド ドア。 内と外を隔てるもの。内と外を繋ぐもの。 それは、どこに続いているのか。

居場所

大きな岩の上に座り対岸の街を眺めていた。 西からゆっくりと太陽の光が移動してきて街並みと海を照らし始めると、世界がキラキラと光りだした。それは、とてもすてきな光景だった。 光はやがて僕の座っている岩にも届き、僕は世界に含まれていることを実感…

約束

聖堂と半月/パリ すでに日はほとんど暮れていて、きれいな半月が顔を覗かせていた。 月が出ていることにしばらく気づかずにいた。下ばかり向いて歩いていたせいだ。 月を見て、ずっとむかしに約束したきり果たせていないことを思い出す。 約束した人のこと…

最近

廃墟と花/アイルランド 最近の僕はまた本ばかり読んでいる。何度読み返したかわからない本をまたなぞっている。そして同じ曲ばかりを聴き続けている。人は進歩のない人生と笑うだろうか。昔出会った大学教授だという男が言っていた。学ぶことは、変わること…

しゃぼん玉の夏

しゃぼん玉/パリ ずっと昔のことだけれど、夜中に小学校のプールに忍び込んで泳いだことがあった。 僕は夏休みの間その小学校でプールの監視員としてアルバイトをしていて、プールの門扉の鍵を預かっていた。今みたいにセキュリティやらコンプライアンスや…

東へ

カフェ/パリ 東に旅立った人からメッセージが届く。 僕は雨上がりの湿った空気の中でそれを開く。 僕たちは500キロメートルほど離れていて、それが僕を不安にさせる。いや、不安なのは急に暖かくなった空気のせいなのかもしれない。僕にはわからない。 自分…

暗闇と光

恋人たち/パリ 僕はうまく眠れなくて天井を見つめていた。 真っ暗な部屋の中で、ときどき通りを走る車のライトが反射して天井に映った。天井の光は弱々しくてすぐに消えた。あとには車の走り去る音と闇だけが残った。それが何回も繰り返された。 いつだった…

化石

パリの骨董市で小さな化石を買った。 売っていた中年の男は早口のフランス語で長々と説明してくれたが、僕にはさっぱり理解できなかった。 節足動物に見えるその石化した生き物はすべすべした石の中で生きているようにも思えた。 少なくともそのときの僕より…

眠気

ここ数日ひどく眠い。 眠さのピークは13時と17時にやってきて、僕はお茶を入れたり顔を洗ったり窓を開けたりするけれど、どうしても睡眠の誘惑に負けてしまう。 まるで見えない象が僕のうしろにいて長い鼻を伸ばしてこっそりと何かを吸い取っているんじゃな…

紅茶を飲み終えてカップを洗いながらふと窓の外に目をやると、大粒の雪が舞っていた。 その瞬間に仕事に行く気が消えてしまって、新しくコーヒーを入れて買ったまま本棚に積んでおいた金井美恵子の目白雑録を読み始める。 雪が降る日は静かだ。

さようなら

最後に一緒に食べたのがコンビニの弁当なんて、ちょっと悲しいなと思う。 けれど、僕たちらしいかなと思う。 いずれにしても、さようなら。

押し入れからテレビを引っ張り出して何かに取り憑かれたように見続けたあげくに周りの空気が薄くなってきたような気分になって、僕は窓を開ける。 春のにおいを含んだ冷たい空気は心地よく、しばらくそのままぼんやりする。 ひどくいやな気分はなかなか去っ…

記憶

高速バスに3時間も揺られると体がきしきし言った。 ステップを降りて大きな伸びをする僕を見て、通りすがりの女の子たちがくすくす笑った。 どこから見ても、私たち修学旅行でやってきましたとアピールしている3人組の女の子だった。 僕を見て笑い、地面で…

シンクロニシティ

ずっと連絡がなかった人から1日のうちに続けてメールが入る。 どこかに僕の死亡記事でも載ってるんじゃないか思ってしまう。 その割にはたわいもないメールばかりだったけれど。

メリーゴーランド

観覧車だとかメリーゴーランドだとかそんなものに興味を惹かれるという話をしたら、「それってわかりやすい幼児退行じゃないの?」と彼女は言う。 そんなに単純に見えるかなと問うと彼女ははっきりと頷いた。 ふうんと僕は曖昧に頷いた。 それよりほかにどう…

no title

一日中冷たい雨が降る。 雪に変わればいいのにと思うけれど、天気なんて思うとおりにいくわけもない。

mac

パリ | オペラ座 - 十数年ぶりにマッキントッシュを買って、iMacでインターネットをしていた頃のことを思い出す。 毎晩macの前に座って飽きもせずキーボードを叩いていた。 200年くらい前のことのような気がする。

石をもらう

北海道の最北端から拾ってきたという石をもらう。 それは何の変哲もない丸っこい石だった。

シードル

小さなレストランでオムレツを食べながらシードルを飲む。