2008-01-01から1年間の記事一覧

バンブー

大学の正門の前には、夜になるとバーに代わるバンブーという喫茶店があって、僕がそこで最後にコーヒーを飲んだのは卒業式の日だった。卒業式には出なかった。理由なんて特にない。もし朝起きたときに冷蔵庫のオレンジジュースが切れていなかったら、出席し…

時間

僕はまた古い曲ばかりを聴いている。 今から20年以上も前に流行った曲だ。 そのころ僕は何をしていたのか、うまく思い出せない。 今とたいして変わらず毎日本を読みながらぼんやりとしていた気もするし、ひどく違った生活を送っていた気もする。 どちらにし…

ポストとベンチ

ポルトガルの古い家にはベンチがついている。 そこに腰掛けているのはたいがい男たちだ。 彼らは例外なく帽子をかぶっており、そして例外なくおしゃべり好きだ。 彼らを眺めていると、何十年もそうやって同じ毎日を繰り返しているんじゃないかという気がして…

忘却

彼のフランス製の小さな青い車はやがて壊れてしまった。プスンと小さな音を立ててそれきり止まってしまった。彼はその車をとても愛していたからひどく悲しかったがそれはどうしようもないことだった。 しばらくして彼は車を分解しはじめた。車のまわりをぐる…

天気読み

天気読みはまず空を見上げて雲の色と形を探り、それからぺろりと舌を出して風の匂いをかいだ。しゃがみ込んで手のひらをぺたりと地面につけ、土の温度と湿度を感じた。はっぱの裏側も覗いてみたし、井戸に小さな石を投げ込んでその音に耳を澄ませることもや…

夜道で踊る

少し遅めの夕食を終えて、レストランを出る。街はもう暗い。 昼間の40度近い暑さの余韻はもうない。 ワインで少しほてった顔にちょうどいい風が吹いている。

城塞のひまわり

城壁の外側には一株だけひまわりが咲いていた。

ナザレの男たち

男たちはみなゆっくりと動く。歩き方も、あいさつの手の動きも、まばたきすら、スローだ。