孤独
ときどき、ひとりになりたくなった。ひとりの時間がほしいとか、誰とも話したくないとか、そういう次元ではなく、ひとりになる願望に強く襲われた。
家族も肉親もおらず、親しい友人も同僚も持たず、誰とも繋がっていないような本当の孤独に憧れた。いや、本当の孤独はそれでは完成しない。繋がりがないだけではだめだ。必要なのは記憶だ。
記憶だけは残っている。僕にも、僕と関わった誰かにも。ひとりにひとつでいいから、できるだけ具体的なそしてできるだけ些細な出来事の記憶が残っていることが僕が求める完璧な孤独だった。
連絡なんてとらないし、そもそも連絡先も知らない。ときどき記憶だけが甦る。春風が公園の砂を巻き上げたときに、すーっとどこからか入ってきてそのまま風と一緒に消え去るようなささやかな思い出だ。
そんな孤独が僕は欲しかった。今でもときどきそう思う。
光射す海
結局のところ、彼女は僕を求めているわけではなかったし、僕も彼女を求めていたわけではなかった。ふたりとも何かの隙間を埋めるためのささやかなぬくもりが欲しかっただけなのだ。そして、そのことに気づかないふりをしていただけだった。
それでも僕はそれなりに傷ついたし落ち込みもした。そんな喪失感は今までだって何度も感じてきた。今回が特別なわけではない。いつもそうだ。いつも僕はひとりで残される。
たまらなく誰かと話がしたかったけれど、その相手さえいない。それもいつもと同じだった。
もう何十回読んだかわからない本を開く。それが痛みを和らげる一番簡単な方法だった。僕は孤独と喪失感を紛らわせることに関してはベテランなのだ。ちっともうまくならないけれど。