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3年か4年ほど同じ時間を過ごした若い友人が旅立っていき、そして挫折して戻ってきた。

数ヶ月ほどアパートの狭い部屋で音楽を聴きながら涙を流す無為な日々を送っていた。落ちていく感覚と不安と劣等感に苛まれながらただじっと時間が過ぎるのを待っていたという。

駅ビルのなかに入っている蛍光灯がやたら明るい冴えない居酒屋で久しぶりに彼に会った。表情のない店員と味のしない刺身と冷やしすぎたビール以外に何もない居酒屋だった。

彼の話を聞きながらほんの少し羨ましさを感じている自分に気づく。

僕には流す涙なんてどこにも残っていない。

百数十年に一度という月はたしかに美しかったけれど、月の光で作られた影はもっときれいだった。
僕は外に出てしばらく月の影を眺めていたけれど、さすがに寒さに耐えられなくなって部屋に戻った。
灯りをすべて消してブラインドを上げてしまえば、また月がきれいに見えた。
首をひねって振り返れば、僕の影ができていた。
なんだか偽物みたいな影だった。