午後の電話


フィンランド | Verla
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仕事場の電話が鳴り、なんとなく嫌な予感がした僕は居留守を使う。
ベルが鳴り止んでやれやれと思っていると、携帯が震えはじめる。
僕はディスプレイに表示された名前を確認して、通話ボタンを押す。
「ひょっとしていま仕事場に電話した?」と僕は訊ねる。
彼女は呆れたような声で「いたの?」と訊ね返す。
「うん。居留守」と僕は答える。
彼女は大きなため息をひとつついて、「なにそれ?」と言う。
「だから、居留守」と僕は繰り返す。
「だって職場の電話でしょ?」と彼女は言う。
「嫌な予感がしたから」と僕は答える。
「ほんとに仕事してるの?」
「一応」
彼女はため息と同時に「一応…ね」と呟く。
器用な喋り方だなと僕は頭の片隅で思う。
「そっちこそなんで勤務中に携帯でかけてくるわけ?」と僕は訊ねる。
「仕事の用事で電話したの」と彼女は言う。
「ふうん」と僕は答える。
彼女から仕事が来るなんてめずらしい。
彼女は早口で仕事の内容を説明し、僕はそれを適当に相槌を打ちながら聞いた。
彼女はときどき「ちゃんと聞いてる?」と確認し、そのたびに僕は「とりあえず」と答え、「ちゃんと聞きなさいよ」と怒られる。
なんだか締まらない午後だった。