猫の時間


もう夜中の1時半だった。
店を出た僕たちはいい加減酔っていた。
空は黒く青く輝いていて、その分空気は冷たかった。
すぐにタクシーに乗るつもりだったのが歩き出したのはなぜだろう。
 
僕たちはぽつりぽつりとしゃべりながらゆっくりと歩いた。
この先に神社があるんですよ、と不意に彼女が言う。
ひどく寒くて、途中で缶入りのミルクティを買ってハンカチで包んで彼女に渡した。
 
神社に着くと、僕らは並んで鈴を鳴らし、お参りをした。
そして境内の隅に置かれた石のベンチに座った。
そんな僕たちを横目で見ながら猫が歩いていった。
 
彼女は僕にはじめて会ったときの話をした。
覚えてますか?と彼女は言った。
もう9年も前のことだった。
僕はまったく覚えていない。
そもそも彼女とは年に何度か顔を合わせるだけで、長くしゃべったことも飲みにいったこともなかった。
制服じゃない姿を見るのすらはじめてだった。
ごめん、覚えてないよ、と僕は言った。
そうですよねと彼女は笑って、でも私は覚えてますよと言った。

しばらく言葉が消えた僕たちの前を、さっきとは別の猫が通りすぎていった。 
猫の時間なんだね、と僕は言った。
そうですね、と彼女は言った。
 
そうやって夜は更けていった。