物語が始まる前の物語


 修道院の屋根裏に住み着いた鳩が三つの卵を産んだちょうどその時、町外れを流れる川の畔で彼女は白詰草で編んだ首飾りを完成させたところだった。彼はそこから2000キロばかり離れた小さな日当たりの悪いホテルの一室でベッドに入って眠りにつこうとしていた。シーツはなんとなく湿っぽくてかび臭い匂いがしたがとくに不満はなかった。夢の中で太陽の陽を浴びて春の風に吹かれればいいのだ、と彼は考えた。いつからか眠る前にそう考えるのが彼の習慣になっていた。この時点で鳩と彼女と彼とのあいだにはまだひとつの交差点もなかった。