雨の午後に世界について語る

 ひどいことに部屋には紅茶もコーヒーも切らしていて、僕は仕方なくレモンを厚く切ってカップに入れ湯を注いだ。彼女はしばらく黙ってカップを見つめていた。それから両手でカップを抱えこみ、そのまま窓の外を眺めた。窓の外ではまだ雨が降り続いていた。暗く冷たくひどく重い雨で、止む兆しはどこにも見えなかった。操車場とか配電盤とかそんなものはもう時代遅れなんだ、と僕は言った。誰かがひっそりと人の目の届かないところでいろんなものを整理したり繋げてくれたりするわけじゃない。そんなことは不可能だ。僕が分類して、君がひっくり返す。あるいは君が命名して、僕が違う名を呼ぶ。それが世界をつくりあげるただひとつの方法なんだ。僕はそう言って彼女の言葉を待った。湯気とレモンの香りと沈黙だけがあてもなく僕らの上空をさまよった。