糸電話的カオス

 木に登って3日目に紙コップと釣り糸で糸電話を作って下に垂らしてみたけれど、それはもちろん誰ともつながってなくて、けっきょく僕は一言も発することなくそれを頭の上の枝に掛けて眠った。夢の中には女の子が出てきて、寝坊した穴グマの行く先を僕に訊ねた。僕は話しかけるときはきちんと紙コップに口を近づけてくれるように言ったのだけれど、彼女はふんと鼻で笑ってそのまま喋り続けた。仕方なく僕だけが紙コップに向かって話した。寝坊した穴グマはもうここにはいない。4ヶ月前に北に向かって出発したんだ。声を出すたびに紙コップの底が震えているのがわかったが、女の子が紙コップをつかんでくれないせいで釣り糸は弛んだままだった。だらんとした糸を眺めていると、僕は自分が誰に話しかけているのかよくわからなくなった。女の子に寝坊した穴グマのことを伝えようとしているのか、それとも寝坊した穴グマと女の子の話をしてるのか。3週間ほど前に来た手紙のことは覚えていたが、その差出人が寝坊した穴グマだったのか女の子だったのか、しばらく考えてみたけれど、どうしても思い出せなかった。いつのまにか僕は目を覚まして、そして考え続けていた。やがて太陽が姿を現し、木に登って4日目の朝がやってきた。糸電話は眠る前と同じように枝にぶら下がったままだった。