照明もつけずに暗い部屋の小さなソファに座っていた。
部屋に入る前に、少しばかり長い散歩をした。
川沿いの道を歩き、川原に降りてみたり、橋の上から水面を覗きこんでみたり、新しい店の灯りを見つけて寄っていってみたり、ときどき立ち止まって満月を見上げてみたり。夜道には春が近づいている気配が漂っていた。
部屋は真っ暗というわけではなかった。街灯なのか満月の光なのか、カーテン越しに漏れてくるかすかな薄明かりが差し込んで、部屋の一角だけをぼんやりと照らしていた。
すべてのものに現実感がなかった。この部屋も外から差し込む光も、そして僕自身さえも偽物みたいな気がした。