電話と雨と月と
暮れゆく川面/ベルギー
電話がぷつりと切れて、その瞬間に雨粒が落ちてきた。
いくらなんでもタイミングが良すぎるだろうと思い、同時にそんなのんきなことを感じる自分に少し驚く。
家に帰り着くころには雨足は強まっていて、僕はずぶ濡れになる。風が強くて濡れた体はひどく冷たかったけれど、その冷たさや寒さは誰か別の人間のものだという感じがした。
数時間前に輝いていた月はとっくに姿を消している。月は、と僕は思う。月はどこに行ったのか。雲に隠れたのか、地平線に沈んでしまったのか。そんなこと、たぶん月にしてみれば大きなお世話なんだろう。それでも僕は月を探し続ける。
雷が鳴り出し、雨粒が窓ガラスを叩く音が大きくなる。
僕は相変わらず月のことを考えながらウィスキーを飲む。冷えた体はいつまでたっても暖かくはならない。それでもベッドに潜り込む気にはならない。
月はどこに行ったんだろう。