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ダムに沈むことになっている村には、今ではもう6つの家しかありません。テレビがそんなことを言う。村には樹齢130年の楠の木があります。僕は紅茶を啜る。トーストを囓る。目玉焼きをつつく。少し塩気が足りないので、小瓶をとってパラパラと振りかける。楠の木にはカケスの親子が住みついています。ティッシュを一枚抜き出して口を拭い、立ち上がって皿をシンクに運ぶ。コーヒー豆を挽く。ガリガリガリ。雛は春に生まれたばかりです。ガリガリガリ。ようやく飛べるようになり、餌を一人で捕ることができるようになりました。ガリガリガリ。ペーパーフィルターに粉を移し、湯を垂らす。コーヒーが入る間に手早く皿を洗う。楠の木は切り倒されようとしています。ソファに座って新聞をめくる。コーヒーを啜る。あと一年で村は沈みます。新聞を読み終わる。コーヒーを飲み終わる。それはいつも同時だ。カケスの親子は何処へ行くのでしょう。窓の外はよく晴れていて、小さな雲が一つだけゆっくりと動いている。カケスは、と僕は思う。ここに来ればいい。代わりに、僕がそこへ行こう。130歳の楠の木の上で暮らそう。ダムができたら水の中で暮らそう。僕にカケスの代わりはできそうもないけれど。