春の電話

f:id:textile:20140327222151j:plain
街角の花/アイルランド

ひどい夢を繰り返し見て目が覚める。そのせいか、体はセメントの中に埋められたように固まっている。まるで自由がきかず、カーテンの隙間から漏れる光が溶かしてくれるのを待っている。
ようやくベッドから起き上がる。その瞬間に電話がなった。なんだか春の日差しのような電話だった。柔らかく、暖かく、そしてすぐに消えそうに儚い。
もしもしという声に応えられず、僕は少しだけ沈黙する。もしもし、もしもし?聞こえる?という声に我に返って、聞こえてるよと応える。
電話にはときどきノイズが混じった。声は遠くなったり2オクターブくらいあがったりした。僕はそのたびに耳を凝らした。
電話を切ってしまうと再び僕はぼんやりする。窓の外には暖かなそうな光が溢れている。いつの間にか体の強張りはなくなっていた。それが電話の声のせいなのか春の光のせいなのか考えてみたけれど、相変わらず僕の頭はうまく動かず、答は紅茶の湯気に消えていった。