耳のなかの骨

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夕暮れ/パリ

 

レントゲン技師は、あなたの右耳の奥に少しばかり奇妙な形をした骨があると言うのだった。あなたひまわりの種をたくさん食べませんでしたか、と彼は言った。僕はそんなものを口にした憶えはないので、食べないと答えた。彼は、おかしいなと首をひねりながら困ったような顔をした。ひまわりの種と関係があるのですかと訊くと、いやまあそれはいろいろと、とまた困ったような顔をして、机の上の冷めたコーヒーに手を伸ばした。僕がうまく人と言葉を交わせないと感じていることがその骨に関係があるのか訊いてみたいと思ったけれども、どう説明すればいいかわからなかったし、それはレントゲン技師の仕事を越えているような気もしたので、何も言わず、代わりにぶどうのクッキーを一口囓った。そこで默ってしまったことも耳の奥にあるという骨に関係しているのかもしれないと思ったのは、ずいぶんと時間が過ぎてからだった。