サーカス、サーカス、サーカス

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観覧車/パリ
 
テントの中は人でいっぱいだった。なんせサーカスがやってきたのだ。犬とロバとネズミのサーカスだ。最初に髭をはやした団長が出てきて挨拶をした。銀色のタキシードを着ている。袖口や裾がすり切れていたけれど、立派なタキシードだった。なんといっても彼はサーカスの団長なのだ。挨拶が終わると僕たちはパチパチパチと手を叩いた。団長は幕の間に消え、しばらくしてから手回しオルガンを持った男と犬が出てきた。男は眼鏡をかけていて、帽子をかぶっていた。そして団長と同じような髭をはやしていた。犬は手回しオルガンの曲に合わせてピョンピョンと跳んだ。僕たちはまたパチパチパチと拍手をした。指笛を鳴らす者もいた。犬は一曲踊りきると舞台裏に引っ込み、代わりにロバが出てきた。髭の男が別の曲を弾きだすと、ロバはそれに合わせてヒヒンヒヒーンと鳴いた。曲が終わるとみんな拍手をした。手が痛くなるくらいの大きな拍手だ。男とロバは舞台の下手に消え、しばらくゴソゴソという音が聞こえたあとで上手からピエロが現れた。赤いカツラをかぶったピエロはやっぱり髭をはやしていた。ピエロは大きな玉をゴロゴロと転がして来て、舞台の真ん中に立った。そして胸のポケットからネズミを取り出して、腕を左右に大きく広げた。ネズミはピエロの左の掌の上で最初キョロキョロしていたが、やがて腕を伝って頭に登り、それから右手の掌まで一気に駆けた。そこでまたキョロキョロとして、もう一度逆に走ってピエロの胸のポケットに消えた。僕たちは心を込めて拍手をした。誰かが家から用意してきた紙ふぶきを撒いた。ピエロはまたゴロゴロと玉を転がして舞台の袖に引っ込んだ。ドタバタと音がして、団長が姿を現した。はぁはぁと少し息を荒げながら、挨拶をした。みんな立ち上がって拍手をした。とても大きな、そう、テントが震えるくらい大きな拍手だった。