満月

f:id:textile:20140317044029j:plain
 
夜、ベランダに座りこみ月を見る。
満月の夜。
3ヶ月前はあんなに寒かったこの部屋にも春はやって来ていて、ベランダを覆う夜の空気も心地いい。
ビールを飲みながら見る月は美しく、僕はぼんやりといろんなことを思い出す。
数日前に訪れた神社や、とても寒かった12月の夜や、酔っ払って駆けっこをしたアスファルトの感触や、川の側の小さなホテルや、大きな岩や、土鍋いっぱいのカレーや、ひどく風が強かった海や、そんなことを思い出す。
それらの記憶の断片が僕をつくっていく。
もし、人が未来を考えずに生きていける動物だとしたらどんなに楽だろうと思う。
だけど、人間が過去を忘れられる生き物だとしたらそれは悲しいことなのか、楽しいことなのか、僕にはわからない。
僕にわかっているのは、僕がまだ彼女を愛していて必要としているということだけだ。
それ以上に確実なことなんて世界にはひとつもないと思う。