春にして想う

f:id:textile:20140310094729j:plain
 
 
少し寒気がしてソファで毛布にくるまっているうちに、いつのまにか眠ってしまった。
うとうとしながら雷が鳴るのを聞いたような気がする。
目が覚めても、それが本物の雷なのか夢の中のできごとなのか判断がつかなかった。
 
目覚めて最初に思ったのはツバメのことだった。
 
今朝会った女の子が僕に言った。ツバメを見たんだよ。
ツバメ? と僕は聞き直した。
うん、ツバメ、と彼女は答えた。橋の上を自転車で走ってる時に、すーっと飛んでいった。今年はじめてのツバメだよ。
そうか、と僕は思う。春が来たんだ。
 
ぼんやりする頭でツバメを思いながら耳を澄ませてみたが、もう雷の音は聞こえない。
その代わり雨が屋根を叩いていた。
たしかに春を感じさせるような雨の降り方だった。
ふと、雨の夜ツバメはどこで寝るんだろうと思う。いまツバメはどこで眠っているんだろう。
僕にツバメのことを教えてくれた女の子に聞いてみようと思ってアプリを立ち上げメッセージを書きかける。
だけど、途中まで書いたところで、僕が知りたいのはツバメのことではなく彼女のことだと気づく。
いつの間にかまたうとうとする。
 
短い冬が終わり春が来る。
春にはいつも自分だけが取り残されたような気持ちになる。