再会


フィンランド | 湖中の家
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橋の上にはサックスを吹く若者とそれにあわせて踊っている2人組の中年の女がいて、僕はその風景をぼんやりと眺めていた。
空には満月が浮かんでいたけれど、歓楽街のネオン街が眩しすぎて月の輪郭は少しばかり滲んで見えた。
 
彼女をすぐに見つける自信はなかった。
16年ぶりに会う彼女の姿なんて想像もつかない。
橋の上にはベンチもあったけれどそこに座る気にもなれないまま所在なく立って、踊る女と空に浮かぶ月とネオンが揺れる川面を順番に眺めた。
誰かが近づく気配がして顔を向けると彼女が立っていた。
記憶のなかの彼女よりずいぶん背が高くて、僕は思わず「背、伸びた?」と聞いた。
16年ぶりに会った最初のせりふが「背、伸びた?」だなんて、ずいぶん間が抜けたことを言ってるなと頭の隅で思った。
「伸びるわけないでしょ」と彼女は笑って言った。
それはそうだ、まったく。
「相変わらずだね」と彼女は言った。
そんなことはないさと僕は思う。
16年は長い月日だ。
いろんなものを得たし、いろんなものを捨てたし、いろんなものが変わった。
もちろん、そんなことは口には出さない。
僕は曖昧にほほえみ、「そうかな」と言った。