行く先


レストランは海のすぐ側にあって、ガラス張りの二階席からは沈みゆく夕陽と行き交う船がよく見えた。
ジーパンなんか履いて来なきゃよかったな、と彼女は言った。
よく似合ってるけど、と僕は言った。
実際その細いジーンズは彼女によく似合っていた。
少なくとも僕がぎこちなく首からぶら下げているネクタイよりはずっと似合っていた。
僕がそう言うと、そういう問題じゃなくて、と彼女は言った。
たぶんそういう問題じゃないんだろう。
僕はワインを飲み、彼女は水を飲んだ。
その間に太陽は沈み、海は黒く、ときどききらめきを残すだけになった。
彼女がトイレにたち、僕はひとり残される。
ゆっくりと動いていく船の灯りを見ながら僕はどこに向かっているんだろうと考える。
僕はいったいどこに行こうとしているんだろう。