no title


その像は、廃墟になった教会にぽつんと置かれていた。
◇◇◇
ネクタイを締めた僕を見て彼女は笑った。
僕は通勤帰りの人々が作ったATMの長い列に並んでいて、彼女がにこにこ笑いながら近づいてくるのに気づいていたけれど、何がそんなに楽しいんだろうとぼんやりと思っただけだった。
スーツなんか持ってたんだ?
彼女はそう言ってまた笑った。
これから仕事なんだよ、と僕は言った。
いつも仕事のときジーパンじゃない、と彼女は言った。
今日は別の仕事。そういうときはスーツ着るの。ネクタイも締めるわけ。
僕の答を無視して、写真撮っていい? と彼女は言った。
なんで?
写真撮ってみんなに見せるの。今日来ないんでしょ? せっかくだから写真だけでも。しかも、スーツだし、みんな見たことないはずだし。
それってネタにしようと思ってるだけでしょ? と僕は答えた。
ばれたか、と彼女は言って、来たときと同じように笑いながら去っていった。