オリーブラジオ

 オリーブラジオは町外れの三階建ての古い雑居ビルの中にひっそりと存在している。最上階の角部屋の南と東の窓からは明るく陽が差し込み、緩やかに曲線を描く高い天井は心地よい空間をつくっている。色あせた壁紙の一部は端が浮いて剥がれそうになっている。ソファの皮は擦り切れかけている。長いこと日に灼かれたフローリングからは古い木の匂いが漂ってくる。ひどく重い木製のワーキングテーブルの上には時代遅れの大きなマイクとターンテーブルが載っている。大きなマグにはいつも飲みかけのコーヒーが三分の一ほど残っていて、ときどき雪崩を起こす雑誌や新聞の山の犠牲になる。その度に僕はあわてて雑巾をとりにキッチンに走らなければならない。それが僕らのオリーブラジオだ。
 オリーブラジオがカバーしている範囲は狭い。ひどく狭い。象の尻尾の先についている一房の毛みたいなものだ。もちろん聴いている人だって少ない。ひょっとしてこのビルの住人だけかもしれないし、それだって怪しいものだと思う。ときどき屋根伝いに窓からふらりと入って来て僕の話を聴いてる茶虎の猫がいるけれど、一番熱心なリスナーってひょっとして彼なのかもしれないって思ったりもする。向こうはただミルクのお礼をしてるつもりかもしれないけれど。