残されたもの

 その友人が僕に残したのは一坪ほどの土地だった。なぜそんなものを僕にくれたのかわからないし、そもそも彼が土地なんかを所有していた理由もわからない。彼の代理人だという男がやってきて、僕は言われるままに小さな字でよくわからないことが書いてある書類にサインをした。それが彼の意志ならそうすべきだと思ったのだ。
 とりたてて変わった土地ではなく、何かの役に立つというわけでもなさそうだった。それは二本の細い道路が合流する手前の小さな三角形で、まわりには小さなスーパーマーケットと交番とゴミの回収場がある。人通りは少なくはないけれど、特に好んで散歩コースにするような場所でもない。そんなものに所有者が存在ことすら想像できない。僕は一度その周辺を時間をかけてゆっくり歩いてみたけれど、やはりその土地の存在理由もそれを僕がもらい受ける理由も何も思い浮かばなかった。
 結局、僕はそこにオリーブの木を植えた。ちゃんと実がなるように二本の若木を寄り添わせた。
 それからずいぶん時間がたったが、僕は一度もあの土地を見に行きはしなかった。だから本当にオリーブが実ったのかどうかも知らない。だけどあそこは僕の土地だ。彼が僕に残し、僕が木を植えた。僕と彼の土地だ。