誰もが自分の人生を語りたがった

 誰もが自分の人生を語りたがった。ある者はいかに自分が不幸であったのかを涙を流しながら説明し、ある者は一昼夜にわたってただひたすら自慢を続けた。多かれ少なかれ、誰もが語るべきことを抱えていた。途中で声が出なくなり、それでもなお筆談に頼って語り続けた者がいた。出生から現在までを順序立てて喋ったあとに再び出生時点に戻って別の話を始める者もいた。学校の話、親の話、街の話、恋の話、仕事の話、病気の話、旅行の話、政治の話……。道に落ちていた一枚の枯れ葉について四時間費やした者もいれば、子宮の中にいた頃の記憶について蕩々と並べたてる者もいた。彼らの話には何ひとつ共通したところはなかった。ある時点にある場所で起こった同じ出来事について語られる場合でさえ、それはまったく別の内容を含んでいるように聞こえた。誰もが自分の人生を語りたがった。だけど語り尽くされる人生など何処にもなかった。