ジャスミンの香りのする夜の出来事

 そのしみはまるでドーナツを食べ過ぎてすっかり太ってしまったミッキーマウスみたいな形をしていたが、もちろんそんな楽しいものではなかった。部屋には動くものは何もなかった。まるですべてが無声映画の中の出来事のように感じられた。どこにも字幕が出ていないせいで何が起きているのかさっぱりわからない。時折どこかで空気の漏れるような音が聞こえた。それが僕の呼吸の音だと気づくまでに、煙草に火をつけるために5回ほどライターの石を擦る必要があった。赤いミッキーマウスの腕に抱かれているのは、昨日の女だった。どこからかジャスミンの香りが漂っていた。