昨夜うまく眠れなかったのは、たぶん風が強かったせいではない。

教会の隅に座ってぼんやりとパイプオルガンを眺めている僕に老女が言った。あなたはカトリック教徒なの?彼女の囁くような小さな声はいつまでも空中を漂っていた。いや、僕は…、僕は仏教徒です。そう答えた。彼女はにっこりと微笑んで、そう、でもここの教会はとても素敵でしょうと言った。僕は頷く。彼女は再び微笑んで立ち上がり、一番前まで進み出ると跪いて静かに祈り始めた。

眠れない夜には、あの小さなうしろ姿をときどき思い出す。そして思う。僕はいったい誰なのだろう。