晴れた日の豆ごはん

もう少しで豆ごはんが炊きあがる、というところでチャイムが鳴った。出てみると黒いスーツを着た男が立っている。「ご主人さまでございますか?」男はにこやかに言った。ご主人さま?まるでランプの魔人みたいなせりふだ。僕が答えるより早く、男はアタッシュケースからパンフレットを取り出した。「わたくし、このたび新しくこの地区の担当となりましたヤマモトと申します」と言いながら、素早くパンフレットを広げた。青い海をバックにオットセイがこちらを見ている。「オットセイ…」僕が呟くと、男はほんの少しだけ笑顔を強ばらせて「アシカでございます」と訂正した。「オットセイとアシカはまったく別の生き物でございます。わたくしどもはアシカ専門でございます。ご主人さま、アシカはお好きでいらっしゃいますか?」彼は笑顔を取り戻してそう言った。僕のうしろで炊飯器がコポコポと音を立てていた。