太陽を追いかけた男

 「太陽を追いかけた男の話知ってる?」と彼女は訊ねた。僕が答える前に彼女はゆっくりと話しはじめた。「むかし、夕日を追いかけようとした男がいたの。夜の間太陽がどういう行動をしているのか確かめようと思ってね。男は夕日を追いかけて西へ馬を走らせたわ。太陽は地面に近づくにつれて少しずつ大きくなっていったから、男は自分が太陽に近づきつつあるんだと思った。だけど太陽は男が追いつくのを待たずに地面の下に潜ってしまったの。太陽を見失った男は川のそばで馬を降りたわ。馬に水を飲ませ、小さな火をおこして食事をした。そして明日こそ太陽に追いつけるはずだと信じて、大きな木の下で眠ったのよ。翌朝目を覚ました男は、自分の背後に、つまり東の空に太陽を発見したわ。そして思ったの。俺はいつのまに太陽を追い越してしまったんだろうって」彼女はここまで話し終わると僕の顔をじっと覗き込んだ。そしてこう言った。「ねぇ、なんだか私たちのことみたいじゃない?」僕には彼女の言おうとしていることがうまく理解できなかった。いや、今思えば、単に理解したくなかっただけなのかもしれない。