リンゴのかたちをした幸せ

 リンゴのかたちをした幸せについては多くのことが語られている。それを最初に手にしたのは、山高帽をかぶり、鼻眼鏡をかけ、こうもり傘を持った公務員だったと言われている。彼が山羊髭を生やしていたことから、当時の人々の間では同じように山羊髭を生やすのが流行ったらしい。今では想像もつかないことだ。その後、リンゴのかたちをした幸せは多くの人の手を転々とした。途中で2度ほど盗まれたり、偽物が大量に出回ったりと、さまざまなエピソードをつくりながら、人から人へ渡り歩いた。一時は大英博物館の倉庫に入っているとも囁かれた。もちろん、だからと言ってリンゴのかたちをした幸せが万人に受け入れられたわけではない。世の中に完璧なものなど存在しないのだ。そして、リンゴのかたちをした幸せはついに僕のところにやってきた。僕にしたところでそれを望んだわけではなかったが、今ではけっこううまくやっている。幸せなんてそんなものだ。