オリーブの種は転がり続ける

 オリーブの種が転がり、部屋に夕暮れがやってきた。僕は相変わらず床に寝転がったままだ。フローリングの床は既に冷たく、ついさっきまで食べ散らかされたシナモンドーナツのように部屋のところどころに転がっていた11月の日曜日の午後の名残りは、もうどこにも見当らない。僕は黙ったまま窓の外の雲を見続ける。部屋の中はしんとしている。カーテンのかかっていない窓から入ってくる光は僕のくるぶしのあたりに纏わりついている。光が薄れるにつれて空気は透明度を増し、冷気が僕の体を包み込む。僕が見つめていた雲は薄いオレンジ色から紫色に変わり、やがて群青色に変わった。雲の色がすっかり変わってしまう間に、ことんことんと音を立ててさらに2つのオリーブの種が転がった。僕の目は相変わらず窓の外を向いている。闇は降り続け、部屋は冷え続け、僕は空を見続ける。そしてオリーブの種は転がり続ける。ことん、ことん。もうすぐ冬がやってくるんだと僕は呟いてみたけれど、それは冷たい空気の中に吸い込まれていっただけで、誰も答えるものはなかった。あるいはもう冬はやって来ているのかもしれない。オリーブの種と一緒に。