カプチーノ、僕と彼女の場合

 スターバックスコーヒーのカプチーノが好きで、いつもトールサイズを頼んで通りに面したカウンターの高い椅子に座っているのが彼女だった。耳にはウォークマンのイヤホンをさし、手元には文庫本が開かれている。白いプラスチックのカップに入ったカプチーノを蓋に開いた小さな四角い穴から啜る間、一度も本から目を離さない。僕と知り合ってからも、それは変わらなかった。お茶を飲もうと言うと、彼女は小さく頷いて黙ったままスターバックスコーヒーへと歩き出す。カッフェーはあまり好きじゃないの、と言う。彼女は普通の喫茶店のことをカッフェーと呼んだ。僕に尋ねることもなく、注文はいつもトールカプチーノ2つ。彼女は椅子に腰掛け、本を開く。それが彼女のカプチーノの飲み方だった。僕は頬杖をついてカプチーノを飲みながら彼女を見つめる。黒い髪を、長いまつげを、セーターに付いた糸屑を。そんなふうに横から彼女を眺めながら飲むカプチーノが、僕はとても好きだった。