椋鳥法

 最初に椋鳥のことを言い出したのはヤマモトさんだった。たぶん一万羽くらい集めれば何とかなるわよと彼女は言った。もちろん僕は反対したのだけれど、彼女は頑として譲らなかった。口の中でぶつぶつと何かを呟きながら黒板によくわからない数式とやけにくねくねした図形をいくつも書いては消した。一万羽も集められないし、そもそも椋鳥にそんな力はないことを何度か指摘したけど、彼女はまったく意に介していない。いつもそうだ。仕方なく僕はできの悪い生徒みたいに頬杖をついてぼんやりと黒板を眺めていた。九千二百四十八羽よ、とヤマモトさんは言った。なんだ、思ったより少なくてすみそうじゃないと言いながら、チョークの粉の付いた両手をぱんぱんと叩いた。椋鳥には絨毯は無理だよと僕はもう一度言ってみた。彼らに扱えるのはせいぜいベッドカバーくらいなのだ。それも木綿のやつだけだ。スモスク羊の髭の絨毯なんて手に負えるわけがない。ヤマモトさんはふんと鼻を鳴らして僕に答えた。長老会議であっさりと椋鳥法が可決されたのはそれから三日後のことだった。