草原、みぞれ、僕

 とても強い風が吹いていた。まるまると太った雌牛がちょっと気を抜いただけでどこかに飛ばされそうになってしまうくらい強い風だ。風にはときどきみぞれが混じった。小さくて、だけど石ころみたいに硬くて、そして恐ろしく冷たい。雲は信じられないような速さで動いた。薄い灰色の雲が去り、薄いブルーの空が現れ、そしてすぐに真っ黒な雲がそれを覆う。灰色とブルーと黒、順番を入れ替えながらそれらはグルグルと続いた。誰かが暇に飽かせて作った気まぐれなパッチワークみたいだった。大地は鮮やかな緑色をした短い草に覆われていて、その色はみぞれに打たれてますます濃くなっていった。僕はそこにひとりで立っている。子供のころの、僕だ。ひどく寒く感じたが、その寒さは僕の皮膚を覆っている薄いプラスチックの膜の向こうに存在するような気もした。
 僕はその風景をはっきりと思い出すことができる。ただ、それがいつのことで、どこなのかということについてはまったく心当たりがなかった。物心ついたときには、みぞれの降る草原は僕の心の中に存在した。両親に訊ねてみてもはっきりしなかった。草原、みぞれ、僕。あそこには何があるんだろう。