メリーゴーランド

 デパートの屋上に残っているのは、今では10円玉でがたがたと動くダンボと錆びつきかけた数台のゴーカート、そして小さなメリーゴーランドだけだった。冬の日暮れは早く、メリーゴーランドは隣のビルの長く延びた影にすっぽりと覆われている。さっき最後の客が帰っていった。僕の仕事ももう終わりだ。若い母親に連れられた男の子のために回したメリーゴーランドは時折キイキイという音を立てた。馬や馬車がぐるぐると12周する間、彼はずっとつまらなそうな顔をしていた。ベンチに座った母親はもっとつまらなそうな顔をしてたばこを吸っていた。デパートの上のメリーゴーランドなんて、すっかり時代遅れになったしろものだった。誰の興味もひかない。僕はもう一度だけスイッチを入れた。夕暮れのしんとした空気の中に賑やかな、だけどどこか寂しい音楽が響き、誰も乗せずにメリーゴーランドは回った。さよなら、僕のメリーゴーランド。