彼女の太った叔父さん

 彼女にはものすごく太った叔父さんがいたわけだけれど、彼女はその叔父さんのことを本当に愛していた。僕に叔父さんの話をするときの彼女の顔はとてもうれしそうに輝く。それは僕がちょっとやきもちを焼いてしまうほどだ。わたしの叔父さんはね、と彼女は話を始める。話はいつも叔父さんの体型に関するものばかりだった。昼寝をしている叔父さんのお腹は上下に50センチも動くとか(実際にものさしで測ったんだそうだ)、そのお腹がすべり台の代わりになるというので近所の子供たちが家の周りにぐるりと行列をつくったとか、服をつくるための採寸が一人では無理だというので同時に二軒の洋服屋を呼んだとか、そんな話だ。中でも彼女が一番好きなのは、つまりその分だけ僕は何回も繰り返し聞かされたのだけれど、叔父さんがテレビを観るときの話だった。叔父さんは2時間もののサスペンスドラマや映画が大好きだった。彼のテレビの見方はこうだ。まずコーヒーとドーナツを用意する。コーヒーは少し深く煎ったマンデリンで、ドーナツは2個、オールドファッションとフレンチクルーラーだ。ごく稀に、気分によってはそれらがブラジルやチョコファッションに代わることもある。番組が始まる3分前に叔父さんはコーヒーとドーナツの皿を両方の手に持ってテレビの前に現れ、そしてソファにゆっくりと慎重に腰を下ろす。黄色い革張りの、とても大きなソファだ。とても良い品物だけれども、さすがに叔父さんがいつも座る場所は少しばかりクッションがへこんでいる。叔父さんは両手に皿を持ったままお尻をもぞもぞと動かし、座る位置を調整する。座る位置に納得がいったことは、いつも最後に深く大きく息を吐くことでわかる。それから叔父さんはコーヒーのソーサーとドーナツの皿を自分のお腹に乗せ、にっこりと微笑む。こうやってすべての準備が整えられるのは、番組が始まるきっかり1分前である。叔父さんはそれからの1分間を本当に楽しそうににこにこ笑いながら待っている。コーヒーとドーナツにはまだ手をつけない。ときおり鼻をひくひくさせながら待っている叔父さんの笑顔を見ると世の中に100%の幸せというものが存在することがよくわかったわ、と彼女はいう。僕はこの話を彼女から聞かされるたびに、太った叔父さんが少しだけうらやましい気分になる。僕には太った叔父さんはいなかったし、太った叔父さんになれそうにもない。本当に残念だ。