マリンバ男2

 周知のようにマリンバ男はマリンバを引っ張りながら歩いている。マリンバの足には小さな車輪がついていて、ガラガラと音を立てながら我々の前を通り過ぎていく。ある時僕は目の前を通り過ぎるマリンバ男を捕まえて、なぜマリンバ男になったのか訊ねたことがある。「そんなことわからないよ」というのが彼の答だった。「そんなことわからないよ。ある日みんなが僕のことをマリンバ男と呼びだしたんだ。そしたらマリンバ男にならなきゃしょうがないじゃないか」彼はマリンバを叩きながらそう言った。僕は「なるほど」と納得した。マリンバ男は普段はとても無口なのだけれど、その数少ない言葉には不思議な説得力がある。これがカスタネット男だとそうはいかない。人々はカスタネット男がカスタネットを叩きながら喋りだすと、とたんに怒りだしてしまう。フルート男に至っては問題外である。我々楽器使いは楽器を弾きながらでないと言葉を発することができないし、だけどフルートを吹きながら喋ることなんて誰にもできない。かわいそうなフルート男。