マリンバ男

 もちろん彼だって最初からマリンバ男だったわけではない。カエルがカエルとして生まれてくるわけではないのと同じだ。いや、それは少し違うかもしれない。すべてのオタマジャクシは時が来れば望むと望まざるとに関わらず自然とカエルになることができるが、すべての男がマリンバ男になれるわけではない。その点ではマリンバ男は幽霊と同じだ。幽霊は幽霊として生まれてくるわけではないし、すべての死んだ人間が自ずと幽霊になれるわけでもない。いや、やはりそれも少し違う。幽霊はいつまで経っても幽霊だが、マリンバ男はいつまでもマリンバ男のままというわけではない。いや、こんな話はやめよう。考え続ければオタマジャクシの幽霊はカエルの幽霊になれるかどうかという論理学上有史以来の難しい問いに答を出さねばならなくなる。マリンバ男は、マリンバ男なのだ。それがマリンバ男のすべてである。