孤独

ときどき、ひとりになりたくなった。ひとりの時間がほしいとか、誰とも話したくないとか、そういう次元ではなく、ひとりになる願望に強く襲われた。 家族も肉親もおらず、親しい友人も同僚も持たず、誰とも繋がっていないような本当の孤独に憧れた。いや、本…

偽物

夜を行く 照明もつけずに暗い部屋の小さなソファに座っていた。 部屋に入る前に、少しばかり長い散歩をした。 川沿いの道を歩き、川原に降りてみたり、橋の上から水面を覗きこんでみたり、新しい店の灯りを見つけて寄っていってみたり、ときどき立ち止まって…

降りかかる花びら 今日は月がきれいですね、というメッセージが届く。 窓を開けると冷気が体を包み込む。 テラスにはくっきりした月影がある。 月を探してしばらく眺める。 反対側には北斗七星が輝いている。 ほんとに月がきれいだねと返した僕のメッセージ…

光射す海

光射す海 結局のところ、彼女は僕を求めているわけではなかったし、僕も彼女を求めていたわけではなかった。ふたりとも何かの隙間を埋めるためのささやかなぬくもりが欲しかっただけなのだ。そして、そのことに気づかないふりをしていただけだった。 それで…

はじまりとおわり

線路 僕たちの恋は1月6日に不意に始まり、2月10日に突然終わった。 それは恋とも呼べないものだったのかもしれない。

嫌いなもの

羊 嫌いなものはたくさんある。歯医者、半袖のワイシャツ、アイスコーヒー、そして噛み合わないままに進んでいく会話。 激しい雨の音で目が覚める。 眠りから現実に戻ってくるまでのほんの短い間に何かを思った気がするけど、それはアスファルトに落ちた雪の…

彼女の話

bar ソファで寝てしまって2時過ぎに目が覚め、それから上手く眠れなくて結局ずっと起きていたせいで夕方に仕事が終わるころにはくたくただった。 携帯にメッセージが届いた時には僕はすでにうとうとしていて、手に持っていたはずの本はソファの傍らに落ちて…

沈黙

島の家々 「久しぶり、最近どう?」と僕は訊いた。 彼女は「入院してるんです」と答えた。 「いつから?」「3週間くらい前」 そっか、と僕は言った。それ以外の言葉が浮かばなかった。 そのまま何十秒かが過ぎた。シベリアの冬みたいに長い沈黙だった。僕の…

午前4時の目玉焼き

古い墓、羊、緑 今日買ったばかりの本を読んでいる。目を上げると4時を過ぎている。それでも夜明けはまだ2時間ほど待たなければやってこない。 冷蔵庫を開けて中を覗く。卵を取り出して少し考え、結局、目玉焼きにする。 フライパンを熱し、油をひいてさら…

めくるめく、めくる

まだ読んでいない本を並べている棚から一番分厚い本を取り出して読もうと思う。連休だし。天気がいいし。なんて思うけれど、本当は連休とも天気の良さとも関係がないことはわかっている。勝手に理由をつけているだけだ。 何年も前に古本屋で買った本からはチ…

風邪

目が覚めるのと同時に風邪をひいてしまったのがわかった。鼻の奥の方に嫌なにおいが漂っていたし、喉に何かが張り付いているようだった。紅茶を飲んでも熱いシャワーを浴びてもそれは取れず、諦めて気づかないふりをすることにした。 午前中の仕事が終わるま…

薄暗い部屋

薄暗いビジネスホテルの部屋は気が滅入る。狭さはほとんど気にならないけれど暗さはどうにもいけない。 仕事をする気にも本を読む気にもなれず、ベッドの上で壁にもたれてぼうっとする。 いつの間にか眠っていたようで、首が痛くて目がさめる。 空気を入れ替…

こないだ見た空

この冬何度目かの雪が降る。 窓の外に重なっていく厚みを見ながら遠い空を思い出す。 時が過ぎていく。

レイトショー

レイトショーには、僕のほかには2人の客がいるだけだった。 平日の夜で、外はひどい雨が降っていた。 ポップコーン売り場の女の子は暇を持てましてくるくるまわる機械を眺めていた。ソファに座った僕も同じようにいつまでもまわり続ける機械を眺めていた。…

日曜の夕方

日曜の夕方がわりと好きなんだけれど、彼女にとってはたぶん消えてしまいたいほど嫌なんだろう。連絡しようと思うけれど、どんな風に声をかければいいかわからなくて、ぼんやりと考えながら遠い国のラジオなんて聞いている。言葉はほとんど聞き取れないけれ…

空港

空港が好きだ。特にセキュリティチェックを抜けて搭乗を待つ時間が。

日暮れ前

熱が出て昼間からベッドに入っている。天井を眺めながら、僕の部屋ではない気がしている。部屋どころか自分自身ですら、僕のものではないように感じる。でも思い起こせば、それは10代の頃からずっと続いてきたことだった。

石の上の花

アイルランド/石の上の花

逃げる

夜の街を歩く。ときどき思い出したように小さな雨粒が落ちてくる。 ずっと開けないメールがあることを思い出す。小さな子どものように目の前から消えてしまうことと無くなってしまうことが同じだと思えたら楽だろうなと思う。 相変わらずいろんなものから逃…

また変な時間に眠ってしまって...

また変な時間に眠ってしまって目が覚めたのは夜中の2時半だった。相変わらず嫌な夢を見ていた気がする。 シャワーを浴びて少しだけすっきりしたけれど、仕事をする気にも、本を読む気にもなれず、結局冷蔵庫を空けてビールを取り出す。非生産的な一日の非生…

古いアルバムを聴くのは決まって夜中だ。 本棚から引っ張り出してきたCDのケースには少し埃が積もっている。 あるいは、それは記憶に積もった時間なのかもしれない。

嫌な夢で目が覚めて、いつの間にかソファで眠っていたことに気づく。 首が変なかたちに曲がっていたのか、ひどく肩がこっている。つけっぱなしだったテレビだけが暗い部屋を照らしている。時間の感覚が少しおかしくて、時計を見ても今が夜なのか夜のふりをし…

5月の日曜

いつ以来か忘れてしまったくらいに天気のいい日に休みが取れて、外に寝転がって昼間からワインを飲みながら本を読む。風は心地よいというには少し強く、指で押さえたページがパラパラと音をたてる。 本を読むのに疲れてそのままうたた寝をする。目が覚めたの…

午前1時20分、ベルが鳴る

電話が鳴ったのは夜中の1時20分だった。たまたま手に持って操作していたiPhoneに表示されたのはずいぶん懐かしい名前だった。彼女から電話がかかってきたのなんてもう15年以上も前のことだった。 そのころ彼女はときどき思い出したように電話をかけてきた。…

夜の

夜中に外に出てビールの缶を開ける。月は霞んで見えない。遠くになった風景を思い出す。

残されたもの

パブ/アイルランド 小さなパブのカウンターには誰かが飲んだワイングラスがひとつだけ残されていた。

偽りのない風景

羊と対岸の街/アイルランド

いつか見た空

海外に行くと、彼の地の画家が描いた空は本当にそんな色をしているんだといつも思う。 オランダの小さな町に生まれ一生涯をそこで過ごした画家はずっとこの空を見ていた。 400年近く前の画家の絵によって空の青さを知る。 僕たちはどんなに長く生きたってす…

ポスト

哲学者に言われなくても、僕の出した手紙がどこに届くかわからないなんてことはわかってる。

空の彼方

過ぎて行く日々に埋もれていくもの。 記憶と感覚。